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生物学原理 ⑲

2024年1月6日

 

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑱の続き)

 

72. Utilize the buccal plane True buccal plane、機能咬合平面ともよばれる。厳密には弯曲を有する。第一大臼歯から小臼歯、乳臼歯が噛み合う面(二次元平面では「線」と表現)である。上下切歯切端の位置は、口唇のバランスや嚥下機能の影響を受けるため、Bioprogressiveでは採用しない。

 

73. Utilize Xi pont 下顎孔の位置に相当するXi pointの活用。下顎体軸(corpus axis)、下顎頭軸(condylar axis)、Oral gnomonの3つの計測で用いられる。セファログラムの分析項目のなかで、Xi点ほど計測項目が集中する場所はほかに見当たらない。V3が下顎骨に侵入する場所であり、蝶下顎靱帯が下顎小舌に付着することもその定位性に符合。正常咬合者の場合は成長が概ね終了するときに、True buccal planeを後方へ延長した線は、Xi point近傍を通過する。

 

74. Vertical growth (chin, mid-face) 難症例の特徴のひとつ。日本人はほかのモンゴロイドや Caucasian に比べて、(統計学的に)垂直成長の傾向が認められる。鼻閉・アデノイド・軟食の影響、あるいは開口癖や形質遺伝上の特徴かもしれない。一般論としては、垂直成長をもつ患者において、歯牙のサイズが大きく歯列の深さが不足し、上下口唇の長さが十分でない場合、小臼歯抜歯の比率は否応なしに高まる。Anchorageの強化だけではなく、さらにすすんで顔貌の改善を目的とした口蓋TADによる上顎大臼歯の圧下移動の試みが増えた理由のひとつでもある。

 

75. Vertical growth (ramus, condyle) “Suspender(側頭筋)” が付着する下顎枝内側の側頭筋稜は、下顎骨を吊り下げる支点となる。下顎頭と筋突起の垂直方向の成長にともなって、オトガイは前へ押し出されるように安定して成長する。したがって下顎頭と筋突起全体の垂直成長は、予後の予測、難易度の判定、円滑な治療進行の指標となる。

 

生物学原理 ⑱

2023年12月29日

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑰の続き)

 

67. Three types of abnormal swallowing ①Habitual / Atavistic、②Glossoptosis / Transitory、③Adaptive / Secondaryの異常嚥下3種類。成立原因にちがいがある。①;嚥下の初動位置からして舌と舌骨が高位、しかも舌全体が前方に位置し、しばしば下顎切歯の歯間部にはスペースが観察される。②;舌や舌骨の位置がC5, C6 levelと低く(*正常はC3-4あたり)舌全体が後方に位置し、嚥下のときに舌は一気に突出する。下顎切歯は叢生し、勢い余った舌に拮抗するように、嚥下時に異常な口唇閉鎖が顔貌からは観察される。③;②に舌の位置と動きは類似。しかし①②のように胎生期における舌の降下の問題ではなく、慢性的なアレルギー性鼻炎、咽頭扁桃の肥大により、開口癖や口呼吸へ舌が二次的に適応した異常嚥下。臨床でもっとも頻繁に目にする。口唇にも異常な動きが観察され、ふだんは口を開いたまま、下唇が肥厚し、乾燥によるひび割れまで認められることがある。①の是正訓練は舌骨を下げること(*あえて嘔吐する動作を習得する)、②③は舌骨を挙上し舌の後方を口蓋に密着させ、なおかつ舌の前方は下顎切歯の舌側に触れる状態を維持し、嚥下時にしっかりと歯をかみ合わせる集中訓練 (Ricketts 1, 2, 3 Exercise)。原因をなした扁桃の肥大や鼻閉はあらかじめ耳鼻科専門医に対処してもらう。Adeno-tonsil ectomyやトリクロール酢酸塗布法などが一般的。

 

68. Unlocking of the malocclusion 回復のポテンシャルの活性を念頭に置いた治療、もしくはそれに準じた処置。内包力の賦活と表現しても差し支えない。自力回復が望めないところに関しては、積極的に歯を動かしたり、若年者ではorthopedic alterationを計画する。Bioprogressiveの特徴をなすSequencial treatmentとは、段階的なunlocking処置と換言できる。なお機能上のunlocking、とくに呼吸の問題については、ENT specialistの正確な診断と加療が必要になる。

 

69. Utilize A-Po plane ①下顎切歯の角度と②切端の前後的な位置を、上下顎の相対的な関係(*Point AとPogonionを結ぶ線)を基準に判断すること。A-Po planeは下顎切歯の異常を判断したり治療目標を設定するときの優れた指標だ。顔面平面や下顎下縁平面を参考にする方法もあるが、下顎切歯は上下顎の相対関係でバランスを取る性質がある(*Compensationの原理を参照)ので、相対基準としてのA-Po planeを、Bioprogressiveでは採用する。

 

70. Utilize prefabrication E. H. Angle の最大の貢献は既製品による治療の簡素化された治療システム。患者ー術者双方の疲労と労力を軽減し、同時に治療の質の向上が図られた。個別化医療の実現にも、製品の規格化と既製品のさらなる活用は欠かせない。

 

71. Utilize pterygoid point V2(第5脳神経第二枝: 上顎神経)が頭蓋基底から翼口蓋窩へ出る場所(Pt point)。正確には正円孔が翼口蓋窩へ開孔するところ。ここは顔の成長中心だ。現在のオトガイの位置を見積もり、症例の難易度を判定し、重ね合わせでその成長中の変動を知るなど、Pt pointの発見を契機に、Ricketts’ Bioprogressiveは大きく前進した。

生物学原理 ⑰

2023年12月28日

 

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑯の続き)

 

63. Summary analysis セファログラムの、とくにLateral分析における重要項目を抽出した計測と、その統合解釈。Bioprogressiveの発展につれて計測点と計測項目が更新されていることには注意を要する。Facial axis, Mandibular plane angle, Oral gnomon (Lower facial height), Mandibular arc, Total facial height, Convexity, Palatal plane, L1 to A-Po(距離と角度), Upper molar to PTV, Esthetic plane, Cranial deflection, Cranial length anterior, Ramus height, Ramus position (Xi axisとFH planeのなす角度),  Porion location (Cranial length posterior、PTVから下顎頭後縁までの距離の方が便利), Corpus length‥‥など。別名「Ricketts分析」。解剖・生理学的に筋が通り、臨床をしっかりサポートしてくれる。

 

64. Sub-labial release 下唇のtightな緊張を緩解する外科手術。対象となる筋肉はQuadratus inferioris labii(下唇方形筋)。Caucasian人口の25%で左右の筋束が連絡するといわれる。筋束は下唇溝(sublabial furrow)を形成し、その過剰な束縛力によって、成長期中には下顎歯列全体が前歯叢生をともないつつ後退する。徐々に下唇が下顎歯列を後ろへ動かすので保定は至極困難、下顎切歯の叢生再発を来しやすい。Ⅱ級1類ではoverjetが増大、Ⅱ級2類の口唇では上顎前歯がやや舌側に傾斜し臼歯咬合がⅡ級傾向を呈する。Ⅰ級症例にもⅢ級症例にもときおり観察される。術式は An Interview with Dr. Ricketts参照。

 

65. Three-basic plane ①Basion-Nasion plane, ②Frankfort Horizontal plane, ③Pterygoid Vertical plane の3大基準平面のこと。Basion-Nasion plane: 神経(脳)頭蓋と内臓(顔面)頭蓋の境界面。Frankfort Horizontal plane: 人類が二足直立歩行を獲得したときの重力法線に直交する面、 Pterygoid Vertical plane: 頭蓋を前後に分ける面。Coronal suture complex(縦に走る冠状縫合複合体)に連続する。

 

66. Three-dimensional control 上下前歯の圧下、上顎切歯の歯軸コントロール、皮質骨を利用したanchorageの強化 (cortical bone anchorage)、皮質骨回避術 (cortical bone avoidance) 、Quad helix の buccal root torque、大臼歯や小臼歯の圧下‥‥ などがこれに該当。

生物学原理 ⑯

2023年12月27日

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑮の続き)

 

59. Sequences or progressions Bioprogressive最大の特徴。一つ一つ着実にunlockingして、条件を整えながら治療を進めるアプローチ。Sectional mechanicsやUtility archは、Ricketts自らが “Sequences”の重要性を認識するにつれて展開していった技術そのものである。臨床観察やセファログラムによる確認によって、それが加速された。一度にブラケットを装着してCAW(連続アーチ)から治療を開始する術式に比べると、Sequencial treatmentは簡素であり、術者の負担が少ないばかりか、side effectにともなう生体侵襲も軽減される。いわば最小の労力で最大の効果を引き出す利点がある。なおunlockingとは、患者自らがもつ*内包力(*なんらかの原因によって潜在する治癒機転が妨げられている回復力)を引き出す処置全般をあらわした、医療全般に当てはまる言葉だ。

 

60. Slow palatal separation Quad helixを用いた正中(上顎)口蓋縫合拡大では、それに同調して新生骨が形成される。Buccal root torqueの力を皮質骨(key-ridge)に対して加え、新生骨の増生速度と一致して縫合部を広げる術式の利点を指す原理。一方、急速拡大では、縫合間隙に瘢痕様の結合組織が形成される。安定した骨組織への置換期は定かではない。

 

61. Space before rotational correction 歯牙の捻転修正に際して事前に十分なスペースを確保し、その後歯牙を回転させる原理。当たり前のようでありながら、忙しい臨床の現場では往々接触点の緊密な状態は見逃されがちだ。捻転歯に加えた力の反作用でほかの歯が想定外の位置へ動くこともある。歯牙の移動や、ときには隣接面の削合によってスペースができたら、それを保持するためのSectionを追加したり、あるいはContinuous wireであれば2箇所のT-loopsでスペースを保持しながら捻転を修正するなど、方法はさまざま。

 

62. Staging sequence or Sequential treatment  この原理の背景は「unlocking」である。類似した特徴をもつ症例の治療には、ある共通した治療段階が観察される。それらを参考に治療を計画する。反面、Bioprogressiveを学びはじめの初心者は、往々にしてstagingを意識するあまりに、それを「術式(きまった「型」)」と捉えるおそれもある。Ⅰ級叢生小臼歯抜歯の治療、Ⅱ級1類非抜歯の治療、Ⅱ級1類抜歯の治療などには、各々の治療群に共通して観察される段階的な処置が、たしかにある。しかしそれらをあくまでも参考事例として、当該患者にとって最適な治療を、計画し実施する。

 

生物学原理 ⑮

2023年12月26日

 

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑭の続き)

 

57. Root rating scale 歯牙移動における歯根単位㎟あたりの適正応力を、歯牙の種類とその移動方向にまとめた図。作業仮説とはいうものの、臨床と基礎研究(三浦、1971)によく整合する。歯根面積は、歯牙の移動方向におけるシルエットから計算されている。歯根の形状と大きさは、G. V. Black(1836-1915)のtext bookを参考にしたので、丸味を帯びて歯根が短い日本人では、適宜、応力を減じる(Root rating scaleの値から1/2-2/3、若年者では更に弱める)。血流が豊富な海綿骨中の移動の値が示されている。皮質骨中の移動には、応力を1/2へ減じる。一方、orthopedic alterationに際しては、あえて歯根を皮質骨へ当てて動かさない硬化変性状態に近づけるため、応力を倍増する。Ricketts seminarの中で、生徒に対して、各歯牙の移動方向における数値(gram-force値)の暗記が求められた数少ない原理のひとつ。

 

 

58. Select the most appropriate therapy 個別症例に対してもっとも適切な治療法を選択すること。特定の「術式(治療テクニック)」へ患者を嵌め込む治療は、患者側の「不利益」に照らせば本末転倒である。Rickettsがその愚をとくに強調したほどだ。矯正歯科治療には、異なるアプローチや方法がひろく存在し、それらのすぐれた点を呑み込む柔軟性も同時に指摘している。治療目標に到達するには幾通りものコースがあり、時宜に応じて最適な選択をする。

生物学原理 ⑭

2023年12月25日

 

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑬の続き)

 

54. Progressive withdrawal 動的処置後半から、段階的に保定処置へ移行する治療原理。バンド治療では、finishing stageで側方歯のバンドを除去し、バンドスペースの閉鎖時にovertreatmentを行う。ダイレクトボンドの時代では難しいが、一例を挙げれば、overtreatment(overcorrection)をおこなった側方歯群のブラケットスロットをタービンバーで広げてワイヤーとの遊びをつくり、切歯のトルクや高さの最終コントロールをおこなうといった、さまざまな方策が考えられる。Chair timeが限られる臨床現場では progressive withdrawal は有効だ。

 

55. Possibilities of early treatment 「可能性」とは安全性を担保した上で人為介入が可能な限界値である。知識としてこれを踏まえておかないと、その可能性を治療計画に盛り込むことはできない。臨床者自らが実証的な経験のない内は、先人などから「可能性」を学ぶのが一般的であろう。徐々に臨床に取り入れ、実際の変化をセファログラムで確認する。Headgearによる中顔面のorthopedic alteration、Utility archとsegmented archを使った一連のメカニクスはその一例だ。

 

56. Remove hazards 客観的なモニタリングを怠らないこと、または適切な演繹思考の大切さ。そもそも診断の誤りは致命的だ。治療の方向性のみならず、細かな臨床もおろそかにはできない。たとえば、牽引中の犬歯の咬合干渉・consolidation中の切歯咬合干渉・鋏状咬合の発現・あるいは顎間ゴムの装着状況・口腔衛生のモチベーション‥‥などである。

 

生物学原理 ⑬

2023年12月23日

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑫の続き)

 

51. Overtreatment 動的処置の終了後に、結合組織や筋肉が、移動後の歯牙・歯槽骨・顎骨を元の場所へ後戻りさせる生体反応を見越して、行き過ぎ(「オーバー」の意味)と感触されるくらいまで歯牙や顎骨の移動を図る術式全般。矯正歯科臨床の大原則だ。たとえば、治療前deep bite症例ならばshallow biteへ、open biteだったらdeep biteへ(大方は二週間以内にshallow biteへ戻る)、Ⅱ級関係だったらsuper class Ⅰへ、Ⅲ級関係だったらⅡ級気味へ、マイナスのoverjetだったり切端咬合だったら大きなoverjetへ‥‥など。YouTubeの Ricketts seminar 1991を参照。

 

52. Pre-torquing formulas Facial type別に設計されたトルク付きの前歯ブラケット。中切歯と側切歯のトルクのタイプには Retroversion, Neutroversion, Proversionの3種類がある。 Pre-torquingは Joseph Jarabak(1906-1989)が最初に公表した。Pre-torquingの不適切な設計やメカニクスの問題に起因して、上顎犬歯の遠心移動中に歯根が皮質骨へ引っかかったり、前歯の後戻りが助長されることもあるので要注意。矯正歯科医の力量の差が如実にあらわれるのは、治療後の切歯の傾斜と高さ・口唇との美しく自然な調和、つまりtorque・intrusion・顔貌を損なわない前後的な位置である。

 

53. Progressive entrance 段階的に治療をはじめていくプロセス。原則に沿ったunlockingだ。SWAとは臨床の種質そのものが異なる。たとえば12歳のⅠ級叢生小臼歯抜歯の症例なら、上下大臼歯のanchorageを確保し、sectional archで犬歯を牽引(*抵抗が少なく血流の豊富な海綿骨の中を単独移動させる)、切歯歯間部にすき間ができてから前歯のアライメントや圧下を行う。BioprogressiveではQuad helixを代表とするlabio-lingual techniqueが治療の初期段階で多様されるのも、unlockingを念頭に置いたprogressive entranceの原理に由来する。バイトターボを噛ませて一気にレベリングを開始する臨床アプローチもあろうが、患者によっては危険をともなう。構医研究機構のビーグル犬の咬合破壊研究で示されたとおり、咬合面の大幅な削合・急激な咬合挙上のいずれの場合も、実験犬の早老化と死亡が確認された。Lingual治療を受けたある14歳女性には、明確な早老化現象(外見40歳ぐらい)が確認され、これは高度ストレスが三叉神経を介して脳に波及したものと考えられている(顎口腔系がもつ脳への大きな影響力)。

生物学原理 ⑫

2023年12月22日

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑪の続き)

 

47. Nasal cavity / Turbinates 顔や歯列の成長と安定は、正常な鼻呼吸と旺盛な咀嚼を基盤とする。鼻腔の幅と高さ、鼻中隔弯曲の程度、鼻甲介の形状・大きさ・奥行き、鼻粘膜の腫脹や充血・炎症度について、病歴や鼻閉状況をふくめて臨床医は把握しなければならない。8歳以前の小児であれば、正中(上顎)口蓋縫合の拡大処置で鼻腔幅径の増大を加速できる可能性はある。BioprogressiveではQuad helixとHeadgearを用いる。口蓋骨と翼状突起のあいだはテーパー状の縫合(45°)をなすので、Headgearでも正中(上顎)口蓋縫合は広がり、その効果の一部は骨鼻腔にも波及する。なおその際、左右前歯をまたぐ連続アーチは装着してはならない。呼吸問題を疑う症例の多くは、扁桃の肥大や炎症も含めて、ENT specialistとの連携を要するであろう。

 

48. Nasopharyngeal space 鼻咽頭のスペースは、頭蓋基底後方の形態的な特徴に連関する。たとえば頭蓋基底の前後が短く斜台が急峻な角度をなすⅢ級患者では、鼻咽頭は前後に狭窄する。一方、Ⅱ級のBrachy face、頭蓋基底の角度が緩やかで後頭蓋(Ba-PTVの距離)も長ければ、鼻咽頭は前後左右にも広い。

 

49. Nature & Bioprogressive Therapeutic Occlusion 天然の正常咬合と、治療上の理想咬合には共通する点もあるが、後者には、治療前の筋肉の制約がおおむねそのまま残存するため、機能の安定だけではなく、後戻り阻止を目的とした工夫が随所に組み込まれている。①上下の歯列幅径の調和、②歯列形状と顔の相似性、③上顎第一大臼歯の十分な遠心回転と下顎同歯のわずかな遠心回転、④上顎側切歯をinsetしない、⑤下顎側切歯を犬歯に対してやや唇側寄りに配列する、⑥下顎側切歯はわずかに遠心へ傾斜させる(下顎側方運動への対抗策)、⑦下顎第一小臼歯(同歯抜歯なら第二小臼歯)を頬側寄りに配列する(Contact #6の達成)、⑧ Contact #6, #14, #20の確立(側方歯群の安定)、⑨下顎犬歯は犬歯筋の圧力を考慮して歯列の内側に位置させる、⑩顔と顎骨の対称性が良好な症例では上下歯列mid-lineを一致させる、⑪後戻りを想定した適切なoverjetとoverbite、⑫Overtreatmentの原則遵守‥‥など。Therapeutic OcclusionはRickettsの臨床経験により整理された。Ricketts seminar 1991(YouTube)を参照。

 

50. Natural distalization of premolars 第一小臼歯が、第二小臼歯を抜歯した場所へ自然に歯体移動する現象。または第二小臼歯が第一大臼歯を遠心へ移動させた際に追随する移動現象。1890年ごろ、Bakerが顎間ゴムで上顎前突の子息を治療したのを機に発見されたようである。1900年ごろからAngleによりBaker anchorageとして採用、以後ひろくこの治療メカニクスが普及した。Bioprogressiveでは、Ⅱ級ゴムをかけたtraction sectionを用いて、はじめ上顎第一大臼歯のみを遠心へ動かし、小臼歯が自然に遠心へ動くのを待ってから犬歯を遠心移動させる術式がしばしば採用される。また、第二小臼歯を抜歯後、sectional archで微弱な力(上記の反応にほんのプラスアルファで十分)をかけて第一小臼歯を動かすこともある。犬歯がある程度自然に遠心移動するのを待ってから残りのスペースを閉鎖するので侵襲が少ない。

生物学原理 ⑪

2023年12月18日

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑩の続き)

 

43. Lower third molars ①Germectomy、②「50%萠出論」、③Anchorageへの活用、④Coroextraction、⑤後戻りなど、複数の処置や原理が下顎智歯に関連している。①Germectomy; 下顎智歯の早期歯胚摘出術。歯列後方のスペースを活用できる可能性が生まれる。②顔面頭蓋の成長が完了した時点で、下顎枝前縁から前方へ歯冠の前半部(智歯歯冠の近遠心幅径10mmならば5mm、ゆえに50%)が位置し、傾斜とtorqueにも問題がなければ、50%の確率で下顎智歯は萠出および機能する。症例観察にもとづく実証論。一方、下顎小臼歯抜歯で第二大臼歯を前方移動させ智歯の萠出スペースを獲得しようとする場合は、50%萠出論を参考に智歯の温存可否を検討する。③下顎智歯の頬側にはきわめて厚い皮質骨(頬側棚)があるので、条件次第ではこれをanchorageへ利用すること。④智歯の歯根が下歯槽管に近接し、智歯抜歯で知覚麻痺が懸念されるときの、歯冠部のみを切除し摘出する手術。残根はその萠出力で移動するため、第二大臼歯の遠心移動を計画する際には、coroextraction後、なるべくすみやかに移動をおこなう。⑤下顎智歯の扱いは歯列保定の奥義である。

 

44. Meta-Positioning “当人” にならずに客観的な立場で症例をみること。「ある状態、経験に対して第三者的な立場で見ること」と定義される。曇りなき眼、内なる他人の目、思い込みの排除、などとも表現されよう。セファログラム分析や4つの重ね合わせは、Meta-Positionならではの “クールな(さめた)目” を養う絶好のツールだ。顔や歯列の経過写真も立体Scanningも然り。

 

45. Mid face complex 中顔面を構成する骨のグループ、頭蓋基底と下顎骨に挟まれた領域を指す。海綿骨が豊富な軽い骨によって構成され、眼窩の側面と底部、鼻腔と副鼻腔、上顎を形成する。上顎骨単独ではなく、ひろく「複合体」としてorthopedic alterationや歯牙移動を捉える。下顎骨との比較において、上顎骨は海綿骨が豊富で軽く、内側は上顎洞でくり抜かれ、多くの骨(頬骨、口蓋骨、下鼻甲介、鼻骨、鋤骨、涙骨、篩骨)と縫合する。実際にも、上顎骨は、中間介在骨を介して頭蓋基底から吊られている。なお、Rickettsは、中顔面のorthopedic alterationに際して、上顎骨を左右一組の“大きな前歯”とみなして対応するのが望ましいと語っていた。

 

46. Muscle anchorage 縦方向に走る抗重力筋の作用が関与する大臼歯のanchorage。咬合斜面を介して歯根に伝わる力は臼歯の前後的安定のみならず過剰な挺出も防いでくれる。Facial axisの安定にも寄与する。Vertical patternの患者の治療が難しいのは、抗重力筋の作用がもともと弱く不安定であるからだ。なお、Ⅱ級患者におけるfacial axisの開大(長顔化)は、一般的に、①overjetの増加、②舌を含む口腔周囲筋の二次的な変化、③咬合の不安定化、④気道の保全にまつわる頭頸部全体の構造変化をともなう。

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