2019年8月4日
7/21(日曜日)の講座内容
オープンバイトの治療に関して、(1) Bioprogressiveにおけるメカニカルなアプローチの特徴、(2) 遺伝因子、(3) 耳鼻科系疾患の参与と耳鼻咽喉科専門医による治療、(4) 家庭における療養対策、(5) R. M. Ricketts が考案した嚥下や咀嚼に関与する筋肉全般の理学療法について、症例を交えた解説が行われました。
不正咬合の原因は、多くの症例においてなんらかのかたちで筋肉の問題が関与しています。治療には多くの学派があり、個々の専門医の間でも意見の相違が見られるものですが、みごとに臨床上の見解が一致するのは「オープンバイトの治療は困難である」。外科矯正後の後戻りも程度の差こそあれなかなか免れません。その根底には、筋肉とそれを作動させる神経へのアプローチの難しさがあり、扁桃肥大やアデノイド、鼻粘膜のアレルギー性の肥厚が幼少期からあった場合は、舌咽頭口唇頬の筋肉が呼吸の問題へ“適応”してきた履歴性の強度、“染みつき”があって変更がままならないからです。筋肉と神経へのアプローチは、ちょうど、金槌(泳げない)の大人に、100メートルの個人メドレーの競泳を教える難しさと喩えてもよいかも知れません。
したがって、不正咬合の治療は、多かれ少なかれ、筋肉への対応でもあるわけです。微小な力は経時効果の蓄積には、絶大な影響を骨格や歯列へ及ぼすことが知られています。歯列を取り巻く口唇・頬筋といった表情筋は、神経支配は別であっても舌と咽頭の筋肉と連動して作動し、歯列の状態の維持に寄与しています。口唇の分類と機能に関しては、5月に概説しましたので、今回は、舌の機能と位置に着目して、参加者と検討しました。具体的には、正常な嚥下の検討・・・正常つまり生理性の保全された状態と機能を踏まえてこそ、バイオプログレッシブにおける3種類のTongue thrust、ならびにその治療法の実際がわかります。Thrustの分類は、(1) Habitual / Atavistic、 (2) Glossoptosis / Transitory、(3) Adaptive / Secondary、です。
引き続き、嚥下と発語機能に関与する軟口蓋の機能。嚥下時には舌と連動することから局所の基礎的な解剖と特定の発語におけるその動きを復習しました。
7/22(月曜日)の講座内容
(1)頭頸部の筋肉とヒトの咬合の概論、(2)咀嚼筋、(3)小児の矯正歯科治療には不可欠である側貌セファログラム長期成長予測法の歴史的な発
展、(4)各種コンポジット図による不正咬合の統計学的な特徴、(5)適切なCervical traction の臨床が解説されました。
Cervical tractionは、専門医でも取り扱う難易度が高いですが、抜歯治療・非抜歯治療といろいろな局面で使用でき、効果は絶大です。
Ricketts R. M.自身は、矯正歯科の最大の突破口はコンピューターの援用である、と述べています(1987)。それがなにを意味しているかは、あまり知られていないのではないでしょうか。端的には、バイオプログレッシブにおける「コンポジット図」のことです。不正咬合を、年齢、アングル分類別、人種、男女、各々に対する治療法とその結果に纏めたものがコンポジット図です。側貌セファログラムトレースの合成図ですので、一目瞭然、この様なアプローチを行うとこうなる、といった情報が直覚的に目に見える形で把握出来ます。
おそらくは、これが矯正歯科界へ浸透することによって医原性の疾病を付与させる可能性が低減され、現代とは異なるかたちの適切な早期治療が普及するに違いない、そのように彼は期待していたと思われます。現実はそのようにならなかったわけですが、それに関しては機会を見計らって検討内容を公開したいと考えています。