セミナー実施報告|矯正歯科医・小児歯科医のためのRセミナー

4月14日(日)15日(月)の報告

2019年4月23日

【 4/14 日曜日 学理セミナー】

3月に行われた頭蓋基底骨(後頭骨・蝶形骨・前頭骨)を復習したのち、下顎複合体(側頭骨・頭頂骨・下顎骨・側頭骨錐体部の解剖と脈管および神経・舌骨・帽状腱膜)、中顔面複合体(鼻骨・涙骨・篩骨・鋤骨・下鼻甲介・口蓋骨・頬骨・上顎骨)の生物学的意味、ならびに、その矯正歯科臨床上の意味を検討しました。

そのほか、臨床における統計学の援用(Clinical norm concept)科学的思考法の活用、さらにRicketts R. M.独自の成長学講座(Growth lecture)を学びました。

しばしば、ひとは(臨床者を含めての謂い)思い込みに陥ります。

“We have science in order to protect ourselves”をはじめてRicketts Advance Course で聴いたときは何のことやら???でしたが、自分が統計学をベースに学会へ臨床報告を重ねていく中で、ようやく腑に落ちた気がした次第です。

(A)Ricketts の頭頸部解剖には、臨床に直結した思考順序があります。個々の患者がもつ解剖特性はさまざまですが、誰しも共通する特徴があります。われわれ専門医はこのことに配慮しなければなりません。

診断と治療計画の立案に関して、可変要素が全面的に制約されているのが頭蓋基底骨です。矯正歯科処置によってこれらを変えることはできません。

つぎに成長の促進や抑制といった人為的介入が、強く制約されているのが下顎複合体です。不適切な矯正歯科処置によってオトガイの成長方向が開大したり顎関節の病理性変化をきたす、あるいは下顎枝までも萎縮する事例は、十分なトレーニングを受けていない一般歯科医師の矯正歯科治療では時折観察されます。とくに下顎骨の成長や、成人であってもその位置の保全には、最大限の注意を要し、「歯を並べる」よりも下顎そのものの成長ポテンシャルを阻害しない、または現状維持に努めることが重要です。医療における『最大非侵襲』はBioprogressiveの根幹です。

つぎに可変要素が若年者ですこし高くなるのが中顔面複合体です。概ね8歳までならば女児でも Orthopedic に Rverse headgear や Cervical traction によって適切な力・その方向・作用時間に配慮すれば変更は可能です。ただし開咬症例を除けば、U-Aをもちいた下顎前歯の圧下移動の技術がすくなくとも行使できなければ、上記の医原性疾病を付与しかねません。口蓋裂患者の治療で注意すべきは、上顎は瘢痕組織の影響が残るため、往々にして下顎複合体と中顔面複合体の順番が逆転することです。

(B)Ricketts R. M.の頭頸部解剖の第2の特徴。重力の「構造」と「機能」で区分されていることです。かれは骨学と筋学に関して、しばしば “Gravitate system ・ Anti-gravitate system” という言い方をしていました。構造医学の用語がもっとも適切であると思われますので参考までに「置性系(Landing system)」と「吊性系(Sling system)」として、頭蓋基底(Landing system)・下顎複合体(Sling system)・そして両者の間を埋め合わせる中顔面複合体(Semi-sling system)として解釈するのが便宜でしょう。

実際にも、「なぜ、下顎骨は人体の数ある骨の中で側頭骨錐体部と同等に緻密であるのか?」、「なぜ、下顎歯の移動は上顎歯よりも困難であるのか?」、「なぜ、上顎骨の側方拡大や中顔面全体の移動が若年者では可能であるのか?」といった疑問もこれでほぼ解明できるでしょう。

(C)3番目の特徴が、形質人類学から解剖学を捉えている点です。Ricketts R. M.がイリノイ大学矯正歯科時代に懇意にしていたLloyd DuBrul’s(人類学・解剖学)の影響と思われます。ご存じの通り、セファロで用いられる計測点や基準平面は人類学からの借用です。

 

【月曜日 実技セミナー】

(1)骨学を理解する方法の中でも、紙粘土や Wax-up にて各骨の概形を作り、力学構造を理解するのがもっとも早いと私は感触しています。名称の暗記というのは大切ですが、それだけでは頭が飽和しそうです。仮に覚えたにせよ、試験の一夜漬けのごとく、臨床の場では役に立つことは期待出来ないでしょう。ところが概形製作の実習は、手指の感覚と相俟って、全貌がとてもつかみやすいものです。

(2)たとえば、側頭骨の関節窩を作る過程では、関節隆起と窪みを指を使って同時にこしらえます。その頂部のなす線を延長してみると、それが Basion や環軸関節近傍を通過する様子がわかります。下顎骨が完全吊性系として姿勢制御系に参与する、という関連医学の領域で明かされた事実も、理論としてではなく実感として「わかる」わけです。

(3)また、錐体部は、側頭骨の側面から微妙な角度をもって前方へ楔状に延長しています。その延長線上には、蝶形骨大翼が持ち上がっていることが観察されます。実際にも、Trans-cranial X-ray(経頭蓋撮影法)では、左右両者が交わる形で明瞭なX字の像として映ります。側貌セファログラムに観察される前頭蓋の年間成長量が、短頭型では少なめに、長頭型で長めになる傾向が、このような製作過程を経ると一目瞭然にわかります。じつは、これから学ぶ長期成長予測法(2年以上の顔面頭蓋の長期成長予測)を習熟する上ではとても重要な基礎知識なのです。

(4)蝶形骨の理解は矯正歯科臨床にはきわめて大きなポイント。Rostrum (蝶形骨吻)鋤骨を介して上顎骨正中を吊り下げ、後方は翼状突起から口蓋骨を介して上顎骨後方を吊り下げていることがわかります。中顔面複合体が、Semi-sling system であることも、分離骨の観察だけではなく、このような概形製作を通じて実感としてわかるのです。

・・・というわけで、2日目はオルソパントモと正貌セファログラム、側貌セファログラムのトレース実習まで順調にすすみました。

ところで、アリゾナ州のRicketts Seminar では、筋学をはじめ、頸椎や頭蓋骨を受講者一人一人が「講師」として発表しました。Ricketts 曰く、「これからみなさんが、臨床者として蓄積してゆく、たしかな経験と知識に対して、是非とも自信を抱いてもらいたいとの思いから、このような機会を私は設けました。」

当時の参加者全員にとって、貴重な経験であったに違いありません。

【写真は受講者のお一人が送ってくれた金沢の山菜とその旬の味】

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