2023年11月24日
Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)
臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.
Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.
Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.
*アルファベット順 (生物学原理④の続き)
19. Cranial base(Basion-Nasion palne) 脳頭蓋(神経頭蓋: neuro cranium)と顔面頭蓋(内臓頭蓋: splanchno cranium)の境界面。すなわち脳を支え顔を吊すinterfaceである。歯列形状はこの境界面と相似形をなす。Facial axisが平均90°をなすCaucasianでは、左右のPt poinから立てた垂線を軸とするふたつの円錐の頂点の中間に、ちょうどオトガイが位置する。日本人正常咬合者のfacial axisはおよそ87°±3°なので、垂線からわずかながら円錐はretrognathicに傾く。頭蓋基底の成長研究では過去にさまざまな学説が唱えられてきたが、左右の円錐面上曲線が合わさった構造として捉えるのが望ましい。種々の歯列形状も、円錐面上曲線(一定の角度ではなく、変角させながら切る)で捉える。
20. Cutoff(age) 長期成長予測 (VTG by maturity) 立案のときに参考にする顔面頭蓋(内臓頭蓋)の成長終了年齢。カリフォルニア州の平均値;女性14.8歳、男性18.8歳を参考にする(日本では実態調査がない)。性差は、統計学的にも明らかであるが、9歳時点で顔の成長が終了していた女性や、16歳以降に下顎の成長が観察された女性もいる。成長量の個人差があるぶん、VTG上の顔のサイズは実際とわずかに異なる。しかし、顔における歯列の位置づけ、具体的な治療計画の立案、側貌の輪郭予測にとっては依然として有用性がみとめられる。
21. Cybernetic Feedback in Planning ①オトガイの位置 ⇒ ②Point Aの位置 ⇒ ③下顎前歯の位置 ⇒ ④下顎大臼歯の位置 ⇒ ⑤上顎大臼歯の位置 ⇒ ⑥上顎前歯の位置 ⇒ ⑦顔貌、(ひとまわりして) ①⇒ ‥‥と、互いに影響を及ぼし得る変化を統合的に判断して治療を計画する思考法。*Cyberneticsは、生物の制御機構と機械の制御機構の共通原理を究明する学問だ(*MITのNorbert Wienerにより提唱)。心理学におけるfeedbackは、出力としての行動の一部を目標に向かうように修正するために入力側に戻すことだ。Bioprogressiveにおける用例はこの意味合いに近似する。たとえば、facial axisを維持しつつ口唇閉鎖と美容上の観点から下顎前歯を概ねA-Po planeに対して2mmに計画する成人症例があったとしよう。Facial axisの維持から計画を練りはじめ、小臼歯抜歯の要否と下顎大臼歯のanchorageの程度、そして顔貌変化を考える‥‥といった具合だ。Dolicho faceが特徴的で過大なoverjetとhigh convexityな顔貌の中学生の女児の例なら、臨床者は「顔は長くしたくない。小臼歯抜歯は現実的な選択肢である」と順繰りに考え、具体的な治療の流れを煮詰める。①のオトガイの位置から思考をはじめるのは、すべての症例において、それが顔貌、治療の難易度、治療の進行全体に与える影響が際立って大きいからである。