セミナー実施報告|矯正歯科医・小児歯科医のためのRセミナー

5月12日(日)・13日(月)の報告

2019年5月17日

【 5/12 日曜日 学理セミナー】

◎ 今回は「5C’s ― Why Cephalogram?」からはじまり、正貌側貌セファログラムの基準平面の意味と計測項目の生物学上の意味を、実践的内容に踏み込んで検討しました。

◎ 矯正歯科臨床は、骨格の是正や歯牙移動のみを行う医療ではありません。これら硬組織の機構の背後には、神経と筋肉の厳然たる影響あるいは遺伝的制約が控えています。神経学、筋学の基礎を欠いたまま臨床に意気込んでみたとしても、望ましい成長パターンが裏打ちしてくれないかぎり、とくに小児の矯正歯科治療では、長期の歯列の安定はおろか、ときには医原性の疾病を付与する危険すらあります。

◎ 歯科医師を養成する教育の問題のひとつは、石膏模型や咬合器といった、生体とは似つかぬ剛体を扱うために、硬組織(これも剛体ではなく、成長発育老化や組織改変が絶えず行われている)に注意が集中しがちになることです。

ということで、日曜日の学理セミナーは、神経学と筋学を、局所解剖と専門領域の臨床実践に関連させて学びました。

◎ なぜセファロ?は素朴な疑問です。これについてRicketts R. M.は5C’sに整序した解答を導き出しています。1950年代にサンフランシスコの学会に出席した折り5組の夫妻で洒落たレストランで夕食をしたときです。ある学会の指導的立場の者から絡まれた(難癖をつけられた)ことがあります。当時、カリフォルニア州ではセファロの撮影装置が僅か6台、内2台は研究所におかれてままでした。セファロの臨床活用意義を謙虚に尋ねれば良いものを、酒の勢いで難じたのです。その時のRickettsの返答が我々の参考になります。

(1) I have a lot of more knowledge about the nature of a face and nature of a malocclusion, than you do.

(2) I have a lot of more sophistication about what an appliance will do, than you can tell on a set of casts.

(3) I have a lot of better way of showing to a patient the nature of the problem and what I’m going to do about it.

(4) I have a lot of better way of educating myself and learning from others.

(5) I have a way of educating a patient that you don’t have.

この出来事を契機に、“The Foundation for Cephalometric communication”の論説を彼は書きました。英語で4 C’s(今日では5 C’s)と呼ばれる内容です。

(C-1) The first was “Characterization” of the patient which means morphologic description. That is the basis starting point.

(C-2) From that, we have to make an interpretation. Therefore the second “C” is to “Classify”.

(C-3)Comparison”. This means longitudinal or serial, with and without treatment, because in essence it is nothing more than measuring change. 

(C-4) The final “C” was “Communication”. Communication is another name for education.

(C-5) We use the tool for “Comprehensive Planning”. Anybody can plan a case, but to be comprehensive, knowledgeable, exact, specific and be delivered in our plans, you have to be comprehensive.

◎先人らの努力を辿って物事の由来を知ることは、臨床に習熟する上で大切です。セファロの歴史的な発展についても検討しました。臨床活用の場面でまず問題となるのが、自然な成長変化であるのか? それとも治療によってもたらされた変化であるか? の見分けです。各部の成長量と成長方向についても同様です。それがBioprogressiveにおけるSuperimposition。(1) Chin Position & Growth Direction, (2) Point-A & Nose, (3) Upper Denture, (4) Lower Denture, (5) Soft tissue *下顎歯列の前に上顎歯列を評価するのはトレース用紙の移動の手間が省けるからで特段の意味はない。

筋肉に関しては、

(A) Physiology and Training of Muscle

(B) Dr. Steindler ― 整形外科の大家で、1950年にRicketts は彼の指導を得て臨床を発展させました。我々の専門分野で普通に使われる用語“Orthopedic”は、Steindlerの影響です。Steindlerのまとめた筋学を本セミナーでは学んだあと、専門臨床に絡めて以下の内容を検討しました。

(C) Mentalis & Quadratus Inferiolis Labii

(D) Classification of Lips

(E) Triangularis ― Limitation of Expansion

(F) Other Facial Muscles

(G) Lower lip Height and Denture

(H) Buccinator、Constrictors, Pharynx

【5/13 月曜日 実技セミナー】

(1)5症例のセファロトレース、その計測、診断を実践しました(結構ハードな訓練)。

(2)Quad helix の調整概説:Quad helix の調整は高度な解剖学知識を必要とします。装置のデザインもHelixも2個にするか?、金合金を用いてW型のシンプルなデザインにするか?、歯根膜や骨縫合に繊細なコントロールをどのように効きますか?等々について解説がありました。矯正歯科装置の力系を考える上で、Quad helix は適切な例といえます。バンドを取りつけた第2乳臼歯や第一大臼歯の歯根に、三次元的「圧力」をどのように加えるか?― これには患者年齢、鼻腔まで拡大するか否か、皮質骨の活用、正中口蓋縫合の骨化度、痛みの耐性などを含めて調整をしなくてはなりません。

(3)隣接面の削合技術もまた、繊細さを要請されるところです。保定中にときおり遭遇する上顎中切歯間のスペース再発について検討した折り、隣接面の削合技術の実際を紹介しました。

今回の学理セミナーは、歯列を取り囲む筋肉に焦点を絞りました。終了後は庭でバーベキュー。焼き肉のあとに茹でたパスタをケチャップで味付け。ニンニクに焼き肉のタレも少々、ピリリと大唐からしが効いて楽しい夜が更けていきました(笑)。

次回は歯列の内側の筋肉 ― 舌と、Tongue thrust、指しゃぶりやLip biteを代表とする口腔習癖、鼻咽頭の解剖、頭頸部の解剖と筋肉の連携プレー、咀嚼筋の概説からはじめましょう。実技セミナーは、いよいよ長期成長予測です。

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