セミナー実施報告|矯正歯科医・小児歯科医のためのRセミナー

9月8日(日)・9日(月)の報告〈その8〉

2019年11月12日

 

  • Case Study 8 Too Late for Orthopedics 

Male Age 11, High convexity [10 mm], Palatal plan: ANS 5° up, FX=87°, L1 to APo=3 mm, E-plane= 7 mm, 4 Bicuspids extraction, Super maximum anchorage, Segmented Traction, Slight Gingival recession with 4−4 Retainer, Lower 3rd molars was erupted after treatment.

冒頭、Ricketts 曰く「もっと早く orthopedic phase の年齢においてこの患者を診ることが出来ていたならば、おそらくはちがう方針を採ったかも知れない」から症例解説がはじまりました(写真 1)。

級1類、患者の顎間ゴムの協力が十分に得られなければ、外科矯正を免れなかったと思われる難症例。

初診時、生え変わる直前の乳臼歯3本が残存。「抜歯治療をせずに78 mmも前突を治すことはすでにこの時点では難しい。」‥‥Facial taype からみても小臼歯抜歯を要します。

最終資料は15歳時。FX=90°, Convexity =3 mm, E-plane= -1 mm, 下顎第三大臼歯歯冠は、下顎枝の前縁から85%前へ位置し、かつ傾斜にも問題は認められません(写真 2)。

 

つまり小臼歯抜歯によって顔貌と咬合と口腔内の健康状態が改善し、しかも便宜的に抜歯した歯よりも丈夫な智歯4本が機能したわけです。

ところで、おおかたの級の抜歯例では下顎大臼歯のアンカレッジが問題となります。本症も例外ではありません。しかし、治療前後の Corpus axis at Pm の重ねでは、大臼歯前方への移動量はわずか 12 mm

(1) 上顎前歯の後退量

 (2) Convexity の減少量

 (3) 下顎小臼歯の抜歯スペースの閉鎖を総合して考えてみると、このアンカレッジの安定性は特筆に値します。Standerd edgewise technique では実現不能なことがおわかりになるでしょう(写真 3)。

 

 

  • Case Study 9 Discussion of Possibilities

Male Age 10, Class Ⅱ [Face is Class Ⅰ], Mesio face, No Headgear, Possibility of U-A torquing on U1,  Long term stability of occlusion.

Long range growth forecasting が開発される以前 (1962) Ricketts 治験例。初診時の顔写真は提示されませんでしたが、もっとも注目されるところは、上顎U-Aによる上顎切歯のトルク変化の大きさです。

ここでは「治療の可能性」、すなわちバイオプログレッシブにおける臨床判断の P. P. F. として、最初の P (possibility) の限界値の一例を Ricketts は提示しました。

現在のU-Aのデザインと異なって Vertical step は省略された、一見して plain なワイヤーにもみえる U-A が使われました。上顎犬歯が萠出間近であるため、歯肉が唇側にこんもりと盛り上がっています(写真 4)。

下顎 U-A とちがって、咀嚼時の変形はあまり心配ないので、筆者も犬歯の萠出にともなって歯肉が膨らみを増す場合には、同様のデザインを多用します。

級2類なので、順番としてまずはじめに、上顎中切歯のみを圧下させ、側切歯の高さまで移動が完了したら、つぎに側切歯へもバンドを装着、以後 4前歯をまとめて圧下移動させます。ワイヤーは 0.016 inch の角線。

口蓋平面で重ねてみると、上顎切歯の唇側への傾斜変化は 28° (palatal plane と歯軸の成す角度が 92° から 120°)、歯牙の圧下量は 5 mm。反作用で上顎大臼歯は遠心へ30°傾斜しました。中切歯歯根尖の移動はおよそ 10 mm 中切歯切縁の advancement 2 mm でした(写真 5)。

Full band で仕上げ治療を完了し、切歯は over jet, over bite ともに1 mm のほぼ切端咬合(写真 6)。

上下8本の切歯の近遠心幅径比率が下顎切歯において大きいため、そのまま治療を終えました。側方歯群の咬合はしっかりとロックされています (写真-7, 1973年時点)

U-A の「U」は utility。言い得て妙です。

なお、Ricketts の講座は、カチカチの知識で聴いてもあたまが混乱するばかりです。個々の臨床判断に至っては、なおさら。生活に即した幅広い General knoredge の背景、そして経験の蓄積がないとピンとこないからです。 — “We only can experience what you’re ready to recieve.”

 

◎ 知的な解説は論文投稿や演題申し込みの時には、科学誌のルールに沿って必要ですが、惜しくも思考領域が狭まるざるをえないので、骨休めに 2019/12 月の文藝春秋を芸術解説 — Canon 綴りプロジェクトから引いてみます。バイオプログレッシブも「生きた臨床」なので、日頃この類いの情味ある会話・書き物に通じていた方が、少なくとも「からだをいじる科学者」にならないで済む点、自然です。

葛飾北斎晩年八十八歳の作、前詞:「北斎の線で森羅万象が動き出す」

美しい袋に包まれた琵琶を一匹の白蛇が這う。獲物を追うかのように光る目、細かい鱗にびっしりと覆われ、身は今でもするすると動き出す生命感あふれる筆遣いが見事な『琵琶に白蛇図』‥‥〉https://global.canon/ja/tsuzuri/

琵琶は財運をよぶ弁才天の持ち物、白蛇はその眷属。弁才天は「芸術」も司るので、「さすがは北斎」、と当時の人々は頷いたことでしょう(笑)。

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