セミナー実施報告|矯正歯科医・小児歯科医のためのRセミナー

9月8日(日)・9日(月)の報告〈その4〉

2019年10月27日

Case Study 3 Prediction & Treatment Design

Ricketts がパシフィックパラセイデスで矯正歯科診療所を開いてから5年目の症例です。

Female Age 5, Orthopedics, Class Ⅱ, Long face tendency, High convexity, Open bite. Tipped palatal plane(5°ANS tip up), Narrowness of Upper Face.

上下第一大臼歯、中切歯ともに未萠出。上下乳中切歯のオーバージェットは10 mm, Terminal planeは完全に級関係です。Nasal width=25 mm、鼻腔内の粘膜の肥厚は正貌セファログラム上で異常を認めません。上顎乳歯列の幅が狭く、側方乳歯群はcross biteを呈しています。

【受講者の治療計画】

成長を9.5年にてVTG(長期成長予測図)を製作。女児では56歳にかけて旺盛な顔の成長が見込まれるため、Arcの成長量はその分を増してVTGを描きました。FX: 2° closeと予測。中顔面に対してCervical tractionによってOrthopedicな変化を加え、convexity の減少を図るとともに萠出前の上下永久歯の前後・幅の咬合環境をあらかじめ整える計画です。下顎第三大臼歯の萠出予測は50%、Germ ectomyは行わない方針です。

【治療経過】

Bioprogressiveの登場以前、この年齢の同種の症例は専門医があつかうことは、ほとんどありませんでした。すべての乳歯にバンドをかけて歯列の拡大を行うのはあまりにも手間がかかり、かりにオーラルスクリーンを使っても乳臼歯の前後関係の是正は不可能であるからです。

上顎第二乳臼歯にGold bandW型拡大装置を付けて上顎幅径の回復を行いました。W型はQ/Hの前身、おそらく直径1mmの金合金を使っていたので、正中口蓋縫合を開くには適正な力が働いたと考えられます。後年、Blue elgiloy(直径0.036 inch 丸線)を採用したのを機に、4個のヘリカルを組み込むことで力が適切に働くように改良しました。Q/H(Quad helix)の誕生です。

上顎第二乳臼歯にCervical traction。牽引力の大きさは、350グラムくらいと考えられます。

混合歯列期になると、上顎歯列の幅径が再び狭窄したため、上顎第一大臼歯にバンドを装着、これに可撤式のBuccal barを夜間装着しました。Buccal barはインナーボウの部分だけの装置とお考え下さい。

短い期間(詳細不明)strap upして咬合を仕上げました。

18歳時の正貌写真所見:口唇部に異常緊張は認めません。ゆるやかに閉唇できる状態です、がやや面長な印象が残ります。上下の第三大臼歯は良好な位置に萠出してきました。

◎なぜこの症例をRicketts が提示したのか?— 57歳は、とくに女児おいて下顎骨は旺盛な発育を示すからです。前回(その3)お話ししたとおり、級の小児患者でも、中顔面のOrthopedicな処置を計画するとき、この重要な「57歳」の指標は変わりません。

  • Case Study 4 Prediction & Treatment Design

Male Aged 12.5, Sever Class Ⅱ Mesio face, Large anterior 

 

base, Protrusive maxilla, High convexity(11 mm), 4 Bicuspids Extraction [Upper 5’s, Lower 4’s], Super maximum anchorage.

オーバージェットはおよそ14 mm、上下歯列は狭窄。口唇閉鎖時にオトガイ筋は著しく緊張。

正貌セファログラム所見として顔の対称性良好、鼻腔幅は狭窄。側貌セファログラムではFX=88°, Facial angle= 86°, Lower facial height=42°, L1 to APo=1 mm, Arch length discrepancy=-4mm.

【受講者の計画】

上下左右小臼歯抜歯、Headgearを使ってアンカレッジを強化、長期成長予測は6年間としてVTGを製作。

【経過】

12歳という年齢からみて、Rickettsは、Cervical tractionによるorthopeadicな変化は期待できないと判断、顎間ゴムのみでアンカレッジを保持する手法、つまり口腔内アンカレッジを操作して上顎前歯の最大限の後退を目指す方針を採りました。

上顎第2小臼歯を抜歯し、第一小臼歯と犬歯をセクションでリトラクト、下顎第一小臼歯の抜歯は上顎前歯のコントラクションが完了するまで待ちました。ここがポイントです!

下顎大臼歯の皮質骨アンカレッジ・抜歯予定の下顎第1小臼歯・下唇(Quadratus inferior labii)といった下顎領域の組織から活用できるあらゆるアンカレッジを利用して、上顎歯列の治療を先行したわけです。この症例は、「治療の生理的な流れ」という意味におけるプログレッション臨床の実際、ならびに Ricketts R. M.の思考の自在性を物語っています。

勿論、すでに下顎第2大臼歯が萠出していてバンド合着が可能であれば、これをアンカレッジに利用します。要点は、プログレッシブなアプローチを進めることで、アンカレッジとなる歯や筋肉といった組織のアンカレッジに対する要請を極力削減すること、です。このように、個別症例における治療の流れ(生理的な順序)は、症例の数だけ存在します。

前歯はこの段階で、反対咬合になっています。

つぎに、下顎の第1小臼歯を抜歯し、ダブルデルタ型のループでスペースの閉鎖を図ります。Continuous wireなので下顎大臼歯は3mm前に滑りますが、これで大臼歯の級関係が確立しました。

上顎にはTorquing U-Aを装着、歯軸傾斜をコントロールした上で、上顎の切歯は、切歯管より後方へ歯体移動しました。

「誰かが彼の切歯管に麻酔するなら、針の侵入は唇側からだね」とR. M. Rickettsは戯れに解説していましたが、驚くべき移動量。しかもアンカースクリューのない時代の、口腔内アンカレッジです。

切歯管は皮質骨。切歯孔を越えた歯牙移動は、いまでも時折議論されます。ただし切歯管は正中に位置するため、左右中切歯がそこを上手く回避する経路で上顎中切歯を後退させれば、通常のコントラクションとなんら臨床上の技術的な差異はありません。

もとの上顎中切歯は唇側傾斜していたとはいえ、切端の移動量は、水平距離で23 mm。上下切歯の十分なintrusionも必要なので、ほかのいかなるテクニックを用いても、同様の結果を得ることは(おそらく)できません。

【前回の補足(ループ付きU-A)

Case study 1 にて解説したループ付きU-Aです。写真をご覧ください。

下顎前歯は強度の叢生を呈し、望ましい場所へのブラケットの接着は困難、かつinter bracket spanの距離が短すぎるために、無理やりやイヤーをブラケットに入れれば、歯根を損傷するほどの強大な力を歯根に加える危険があります。How to式な術式は一切通用しない厳しい状況、ということをご承知ください。

したがってループ付きU-Aを直接法にて結紮。位置ずれを防ぐためにスーパーボンドを前歯唇面および結紮線断端へ流します。(スーパーボンド開発以前でしたから、Rickettscervical tieを多用。)

Lip bumperの原理とおなじく、下唇の筋肉の圧力をループで排除し、下顎前歯をintrusion、かつadvanceさせるといった、安全かつ合理的なメカニクスです。しかも歯根に対しては穏やかな力が働きます。装着時は、軽い力か、ほとんどpassiveです。 その後、ビークの細いループベンドプライヤーを用いた Intra-oral adjustmentが、活性化の基本作業となります。

◎症例:26歳成人女性。現在治療途中ですが、患者さんから了承を頂きましたので載せます。 FX=78°(Sever dolicho facial pattern)Very tight lower lipConvexity 4 mm, L1 to APo=0 mm, 既往として小学生のとき、一般歯科医による非抜歯矯正治療を受けています。

◎当診療所における治療指針:(A) 下顎:水平埋伏智歯を抜去し、そのスペースへ下顎第1・第2大臼歯を2 mm後方移動。(B) 上顎:歯根発育の弱かった右上犬歯・左上第2小臼歯を抜去し歯列を整える。この患者さんに関して、「どのように非最大侵襲の治療を進めるか?」‥‥そこが鍵となります。

それでは Bioprogressiveにおける階層構造の(プログレッシブな)アプローチを閲覧しましょう。ワイヤーは舌側・頬側ともに柔らかな金合金を主体に治療を進めますが、Looped U-Aに関しては、断面が 0.014×0.018 inch elgiloy(特注品)を使いました。Buccal portionが長くloopも組み込まれているために、軽くて持続的な力が発揮できるからです。

◎今後の方針.

(1) 唇側歯肉のcleft形成に注意を払いつつ、下顎前歯を慎重に intrusion かつ advancement。下顎前歯の歯間に、Rotation correctのための十分なスペースも確保します。

(2) 直接法のU-Aを外して、ブラケットを接着。通常のU-Aへ切り換えて下顎歯列全体を配列。唇則歯肉に退縮が起きないか、ここでも注意を払います。配列が整ってくるのと並行し、長期保定に備え、下顎前歯隣接面を削合(数回に分けたstripping作業)

(3) 顔の正中と上顎歯列の正中を一致させるべく、左側級顎間ゴムを用いて、上顎左側側方歯群をセクショナルワイヤーにて後方へ移動。

(4) Detailingを行い、 Ideal arch で仕上げ処置へ。嚥下時のTongue thrusting傾向が初診時に認められたので、もしOpen biteが発現すれば、「Ricketts 1 2 3 エクササイズ (MFTの一種)」を励行します。

(5) プログレッシブに装置を除去、保定へ移行。

一度に装置を除去する方法は、今日なかば常識ですが、Bioprogressiveでは治療が段階的にはじまるのと同じく、徐々に保定へ移行あたかも飛行機が滑走路にSoft landingするかのごとく!

予知性の高い治療を遂行する上での「プログレッション」、いかがでしたでしょう。

患者さん一人一人に、そのひとの生理に合致した、安全な矯正歯科治療の手順(進め方)があります。それを、P(Possibility ),P(Practicality or Provability), F(Feasibility)の観法とVTGの製作をとおして具体的に計画します。治療がはじまったら、安全性を確かめる目的でモニターリングを行い、慎重に治療を進める — Bioprogressiveの特長のひとつです。

同じ検査であっても、その解釈や予知性の高さは従来と種質が異なります。

同じ装置であっても、その扱い方は、従来法に比べて自由度(versatility)が高く、最大限の安全性(security)が担保されてます。

秋の空 尾上のスギを はなれたり」この江戸俳句は日々の暮らしにとけ込んだ清々しき情味にあふれています。Bioprogressiveのあかるさにも一脈通じると思うのは、けっして筆者だけではないでしょう。2019 9月のセミナー報告は、計12症例におよぶ Case studyの内容があまりに濃厚なため、都合 2症例ずつ掲載していきましょ う。

月別アーカイブ

カテゴリー

  • カテゴリーなし