2023年11月25日
Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)
臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.
Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.
Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.
*アルファベット順 (生物学原理 ⑤の続き)
22. Different feature between Maxilla and Mandible 歯の移動、大臼歯のanchorage保全、orthopedic alterationの可否に関連した解剖学的な相違。上顎複合体は下顎骨よりもはるかに軽く、咬合力を伝達する外側の皮質骨を除外すれば、鼻腔と副鼻腔が存在し、海綿骨が豊富である。一方、下顎骨は、咀嚼と嚥下に積極的に関与し、重錘(ほぼ皮質骨の塊)として姿勢制御系にも参与するといわれる。海綿骨が豊富な場所もあるが(歯槽突起・下顎頭・下顎枝の内面など)、全体としてはきわめて緻密でずっしりと重たい。当然ながら、下顎歯の移動に関する生物学的な制約はつよくはたらき、実際にもむずかしい。正確な下顎歯牙の移動には、皮質骨の分布を踏まえた「樋状構造」の概念が欠かせない。外側の皮質骨に囲われた狭い海綿骨の中で歯牙移動を行う基本的な術式だ。
23. Ellipses on the cone 円錐形状は生物の「原器」である。Rickettsが内臓頭蓋の各所に観察される円錐構造・円錐面上曲線に着目したのは、親交の深かった人類学者 Lloyd DuBrul(1909-1996)の影響かもしれない。円、楕円、放物線、双曲線、対数螺線といった生体の各所に観察される形状は、すべて円錐を切る角度で表現される。種によって特徴的な歯列の形状、Ba-N planeが底面となりオトガイを頂点とする内臓頭蓋の円錐構造、口腔円錐に現れるモンソン弯曲やスピーカーブ、螺旋顆状をなす下顎頭(膝関節と相似形)、下顎の弓状成長、歯根と歯冠に観察される円錐の形は、すべて原器の特徴を継承している。
24. Extra-oral anchorage(顎外固定) E. H. Angleの時代、顎外固定は歯牙移動に限局したanchorageの強化概念であったが、患者の年齢や適用の方法によっては、中顔面のorthopedic alterationがもたらされることが次第に明らかになってゆく。1953年セファログラムで最初に確認したのがシカゴの女性小児歯科医師 Buleah Nelson、つぎにセファログラムで客観的に証明したのが R. M. Ricketts。以後、小児の上顎前突症例にorthopedic deviceとしてcervical traction、high pull headgear、combination type、reverse pull headgear(牽引方向による分類)、face bowやJ-hookを含めればさまざまなタイプのHeadgearが普及した。TAD(矯正歯科用アンカースクリュー)が普及したとはいえ、extra-oral anchorageは、若年期の小臼歯抜歯症例では有効な選択肢のひとつである。
25. Four-position procedure 2枚のLateral film上で行う4つの重ね合わせのこと。軟組織の重ね合わせを含めると5箇所になるので、単に「Superimposition」ともいう。撮影直後のフィルム(画像)にTime 1トレースを重ねて、歯やorthopedicな変化を確認することも忙しい臨床ではよくある。デジタルの画像であっても、適切なサイズのモニターへ映し出せば、重ね合わせは十分可能だ。順繰りに重ねる過程なので “procedure” と呼ぶ。Ba-N at CCでオトガイを評価(S1 *S; superimposition)、Ba-N at NasionでPoint Aを 評価(S2)、トレースをずらしてANS-PNSにて合わせて “Greatest fit” するところでU6とU1を評価(S4)、Corpus axis at PmでL1とL6を評価(S3)、2枚のE-planeを機能咬合平面の高さで合わせて上下の口唇やオトガイの緊張を評価(S5)する。このほか、下顎arcの重ね合わせなど、さまざまな活用法がある。