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生物学原理 ⑨

2023年12月9日

Ricketts の生物学原理(臨床思考のバックボーン)

 

臨床者が依拠する原理の質、種類の豊富さ、組み合わせ方が、実践を通してそのひとなりの Philosophyを培う.

Bioprogressiveのきわだつ特徴は、生物学原理を自在に援用した最大非侵襲・最大成果を旨とする、患者個々人に合わせた臨床思考だ. 時代ごとに現れる新技術・新知見を生物学原理から精査し、それらをどんどん呑み込んで発展する可能性は無限だ.

Core valueは、“First select procedures that will make money and still produce the highest quality possible”.

*アルファベット順 (生物学原理 ⑧の続き)

 

34. Know natural growth mechanism Mechanismには形態にまつわる遺伝子の発現の意味合いもあるが、ここでは成長期における顔面頭蓋と歯列の形態的な変化を指す。たとえば、①頭蓋基底と上顎複合体の成長停止後も下顎骨の成長はわずかに持続する。そのとき上顎歯列の歯槽部は下顎歯列との嵌合(咬合斜面)に誘導されて前下方へ移動する(*鼻の軟組織も成長するので、顔貌と口元のバランスは保たれる)。②下顎切歯は萠出前に乳中側切歯よりも舌側に位置するが、正常な筋機能や顎関係に誘導されて、上顎切歯と咬合する頃にはA-Po平面に対して前後の位置が定まる。③下顎歯列はcorpus axisとほぼ並行に年間0.5mm萠出する。④Mesio facialからbrachy facialの安定した筋肉のパターンをもつ人は、成長につれてfacial axisがわずかに閉鎖する、そのほか⑤Oral gnomonやCC-N-Point Aの角度の定常性、⑥Total facial heightの安定、⑦鼻-口唇-下唇溝-オトガイの軟組織バランス(緩やかな口唇⇒ 突出傾向が強まる vs. タイトな口唇⇒ 後退傾向)、⑧下顎骨の弓状成長‥‥など。

 
35. Know normal swallowing 食塊や唾液の嚥下がはじまり完了するまでの一連の正常機能を知ること。「正常」を知ることによって「異常なバランス」が明瞭にわかる。舌のもともとの位置(嚥下初動の位置)とそこからの動き(軌道、速度、停止位置)、舌骨の動き、初動における閉唇や接牙の状況、鼻咽頭の閉鎖‥‥などである。舌の位置と動きは口唇と密接に連動する。したがって顔貌の観察から、舌の状態は容易に推察できる。何気ない表情・会話や発語・嚥下・呼吸との連動を観察することは、予後の見通しを立てる一助となる所以だ。

 
36. Know orthodontic possibilities 歯根損傷を極力低減させて歯牙移動を行う際の、移動量の限界と臨床技術を知ること。筋肉が歯牙移動を補佐することもあれば、逆に歯牙移動を妨げることもある。そのため、安全かつ順当な歯牙移動の最大範囲は、筋肉との関連で論じる必要があろう。装置の選択と設計、矯正力の大きさ・方向・期間・応力分布、生体の順応、術後の安定については、Ricketts seminar 1991(YouTube)の各種症例を参照。

 
37. Know orthopedic possibilities 早期治療におけるorthopedic alterationの可能性のこと。自力回復が望めない骨格性dysplasiaに対する、若年期における処置である。対象となるのは中顔面(上顎複合体)だ。当然ながら筋肉や呼吸への対応が功を奏する場面は少なくはない。ANSが上に留まり上顎の突出が認められるⅡ級brachy faceの開咬、arch lengthや歯牙サイズに問題をみとめない7歳の患者の治療を例に挙げてみよう。Cervical tractionを用いてpalatal planeを後下方へ6°、Point Aを6mm下げた場合、開咬はほぼ軽減されるであろう。形態修正をある程度すすめてから、必要に応じて筋機能訓練をはじめる。もちろん呼吸や習癖の問題があれば術前や術中に改善しておくことが望ましい。

 
38. Know the feature of ligaments 歯根膜がもつ改造能力と後戻りのポテンシャル。矯正歯科医の仕事は、歯根膜の生物学的な特性へ全面的に依存する。広義には顎関節外側靭帯、蝶下顎靱帯、茎突下顎靭帯等の特性も含む。

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