セミナー実施報告|矯正歯科医・小児歯科医のためのRセミナー

7月21日(日)・22日(月)の報告

2019年8月4日

 

7/21(日曜日)の講座内容

オープンバイトの治療に関して、(1) Bioprogressiveにおけるメカニカルなアプローチの特徴、(2) 遺伝因子、(3) 耳鼻科系疾患の参与と耳鼻咽喉科専門医による治療、(4) 家庭における療養対策、(5) R. M. Ricketts が考案した嚥下や咀嚼に関与する筋肉全般の理学療法について、症例を交えた解説が行われました。

不正咬合の原因は、多くの症例においてなんらかのかたちで筋肉の問題が関与しています。治療には多くの学派があり、個々の専門医の間でも意見の相違が見られるものですが、みごとに臨床上の見解が一致するのは「オープンバイトの治療は困難である」。外科矯正後の後戻りも程度の差こそあれなかなか免れません。その根底には、筋肉とそれを作動させる神経へのアプローチの難しさがあり、扁桃肥大やアデノイド、鼻粘膜のアレルギー性の肥厚が幼少期からあった場合は、舌咽頭口唇頬の筋肉が呼吸の問題へ“適応”してきた履歴性の強度、“染みつき”があって変更がままならないからです。筋肉と神経へのアプローチは、ちょうど、金槌(泳げない)の大人に、100メートルの個人メドレーの競泳を教える難しさと喩えてもよいかも知れません。

したがって、不正咬合の治療は、多かれ少なかれ、筋肉への対応でもあるわけです。微小な力は経時効果の蓄積には、絶大な影響を骨格や歯列へ及ぼすことが知られています。歯列を取り巻く口唇・頬筋といった表情筋は、神経支配は別であっても舌と咽頭の筋肉と連動して作動し、歯列の状態の維持に寄与しています。口唇の分類と機能に関しては、5月に概説しましたので、今回は、舌の機能と位置に着目して、参加者と検討しました。具体的には、正常な嚥下の検討・・・正常つまり生理性の保全された状態と機能を踏まえてこそ、バイオプログレッシブにおける3種類のTongue thrust、ならびにその治療法の実際がわかります。Thrustの分類は、(1) Habitual / Atavistic、 (2) Glossoptosis / Transitory、(3) Adaptive / Secondary、です。

引き続き、嚥下と発語機能に関与する軟口蓋の機能。嚥下時には舌と連動することから局所の基礎的な解剖と特定の発語におけるその動きを復習しました。

7/22(月曜日)の講座内容

(1)頭頸部の筋肉とヒトの咬合の概論、(2)咀嚼筋、(3)小児の矯正歯科治療には不可欠である側貌セファログラム長期成長予測法の歴史的な発

展、(4)各種コンポジット図による不正咬合の統計学的な特徴、(5)適切なCervical traction の臨床が解説されました。

Cervical tractionは、専門医でも取り扱う難易度が高いですが、抜歯治療・非抜歯治療といろいろな局面で使用でき、効果は絶大です。

Ricketts R. M.自身は、矯正歯科の最大の突破口はコンピューターの援用である、と述べています(1987)。それがなにを意味しているかは、あまり知られていないのではないでしょうか。端的には、バイオプログレッシブにおける「コンポジット図」のことです。不正咬合を、年齢、アングル分類別、人種、男女、各々に対する治療法とその結果に纏めたものがコンポジット図です。側貌セファログラムトレースの合成図ですので、一目瞭然、この様なアプローチを行うとこうなる、といった情報が直覚的に目に見える形で把握出来ます。

 

おそらくは、これが矯正歯科界へ浸透することによって医原性の疾病を付与させる可能性が低減され、現代とは異なるかたちの適切な早期治療が普及するに違いない、そのように彼は期待していたと思われます。現実はそのようにならなかったわけですが、それに関しては機会を見計らって検討内容を公開したいと考えています。

5月12日(日)・13日(月)の報告

2019年5月17日

【 5/12 日曜日 学理セミナー】

◎ 今回は「5C’s ― Why Cephalogram?」からはじまり、正貌側貌セファログラムの基準平面の意味と計測項目の生物学上の意味を、実践的内容に踏み込んで検討しました。

◎ 矯正歯科臨床は、骨格の是正や歯牙移動のみを行う医療ではありません。これら硬組織の機構の背後には、神経と筋肉の厳然たる影響あるいは遺伝的制約が控えています。神経学、筋学の基礎を欠いたまま臨床に意気込んでみたとしても、望ましい成長パターンが裏打ちしてくれないかぎり、とくに小児の矯正歯科治療では、長期の歯列の安定はおろか、ときには医原性の疾病を付与する危険すらあります。

◎ 歯科医師を養成する教育の問題のひとつは、石膏模型や咬合器といった、生体とは似つかぬ剛体を扱うために、硬組織(これも剛体ではなく、成長発育老化や組織改変が絶えず行われている)に注意が集中しがちになることです。

ということで、日曜日の学理セミナーは、神経学と筋学を、局所解剖と専門領域の臨床実践に関連させて学びました。

◎ なぜセファロ?は素朴な疑問です。これについてRicketts R. M.は5C’sに整序した解答を導き出しています。1950年代にサンフランシスコの学会に出席した折り5組の夫妻で洒落たレストランで夕食をしたときです。ある学会の指導的立場の者から絡まれた(難癖をつけられた)ことがあります。当時、カリフォルニア州ではセファロの撮影装置が僅か6台、内2台は研究所におかれてままでした。セファロの臨床活用意義を謙虚に尋ねれば良いものを、酒の勢いで難じたのです。その時のRickettsの返答が我々の参考になります。

(1) I have a lot of more knowledge about the nature of a face and nature of a malocclusion, than you do.

(2) I have a lot of more sophistication about what an appliance will do, than you can tell on a set of casts.

(3) I have a lot of better way of showing to a patient the nature of the problem and what I’m going to do about it.

(4) I have a lot of better way of educating myself and learning from others.

(5) I have a way of educating a patient that you don’t have.

この出来事を契機に、“The Foundation for Cephalometric communication”の論説を彼は書きました。英語で4 C’s(今日では5 C’s)と呼ばれる内容です。

(C-1) The first was “Characterization” of the patient which means morphologic description. That is the basis starting point.

(C-2) From that, we have to make an interpretation. Therefore the second “C” is to “Classify”.

(C-3)Comparison”. This means longitudinal or serial, with and without treatment, because in essence it is nothing more than measuring change. 

(C-4) The final “C” was “Communication”. Communication is another name for education.

(C-5) We use the tool for “Comprehensive Planning”. Anybody can plan a case, but to be comprehensive, knowledgeable, exact, specific and be delivered in our plans, you have to be comprehensive.

◎先人らの努力を辿って物事の由来を知ることは、臨床に習熟する上で大切です。セファロの歴史的な発展についても検討しました。臨床活用の場面でまず問題となるのが、自然な成長変化であるのか? それとも治療によってもたらされた変化であるか? の見分けです。各部の成長量と成長方向についても同様です。それがBioprogressiveにおけるSuperimposition。(1) Chin Position & Growth Direction, (2) Point-A & Nose, (3) Upper Denture, (4) Lower Denture, (5) Soft tissue *下顎歯列の前に上顎歯列を評価するのはトレース用紙の移動の手間が省けるからで特段の意味はない。

筋肉に関しては、

(A) Physiology and Training of Muscle

(B) Dr. Steindler ― 整形外科の大家で、1950年にRicketts は彼の指導を得て臨床を発展させました。我々の専門分野で普通に使われる用語“Orthopedic”は、Steindlerの影響です。Steindlerのまとめた筋学を本セミナーでは学んだあと、専門臨床に絡めて以下の内容を検討しました。

(C) Mentalis & Quadratus Inferiolis Labii

(D) Classification of Lips

(E) Triangularis ― Limitation of Expansion

(F) Other Facial Muscles

(G) Lower lip Height and Denture

(H) Buccinator、Constrictors, Pharynx

【5/13 月曜日 実技セミナー】

(1)5症例のセファロトレース、その計測、診断を実践しました(結構ハードな訓練)。

(2)Quad helix の調整概説:Quad helix の調整は高度な解剖学知識を必要とします。装置のデザインもHelixも2個にするか?、金合金を用いてW型のシンプルなデザインにするか?、歯根膜や骨縫合に繊細なコントロールをどのように効きますか?等々について解説がありました。矯正歯科装置の力系を考える上で、Quad helix は適切な例といえます。バンドを取りつけた第2乳臼歯や第一大臼歯の歯根に、三次元的「圧力」をどのように加えるか?― これには患者年齢、鼻腔まで拡大するか否か、皮質骨の活用、正中口蓋縫合の骨化度、痛みの耐性などを含めて調整をしなくてはなりません。

(3)隣接面の削合技術もまた、繊細さを要請されるところです。保定中にときおり遭遇する上顎中切歯間のスペース再発について検討した折り、隣接面の削合技術の実際を紹介しました。

今回の学理セミナーは、歯列を取り囲む筋肉に焦点を絞りました。終了後は庭でバーベキュー。焼き肉のあとに茹でたパスタをケチャップで味付け。ニンニクに焼き肉のタレも少々、ピリリと大唐からしが効いて楽しい夜が更けていきました(笑)。

次回は歯列の内側の筋肉 ― 舌と、Tongue thrust、指しゃぶりやLip biteを代表とする口腔習癖、鼻咽頭の解剖、頭頸部の解剖と筋肉の連携プレー、咀嚼筋の概説からはじめましょう。実技セミナーは、いよいよ長期成長予測です。

4月14日(日)15日(月)の報告

2019年4月23日

【 4/14 日曜日 学理セミナー】

3月に行われた頭蓋基底骨(後頭骨・蝶形骨・前頭骨)を復習したのち、下顎複合体(側頭骨・頭頂骨・下顎骨・側頭骨錐体部の解剖と脈管および神経・舌骨・帽状腱膜)、中顔面複合体(鼻骨・涙骨・篩骨・鋤骨・下鼻甲介・口蓋骨・頬骨・上顎骨)の生物学的意味、ならびに、その矯正歯科臨床上の意味を検討しました。

そのほか、臨床における統計学の援用(Clinical norm concept)科学的思考法の活用、さらにRicketts R. M.独自の成長学講座(Growth lecture)を学びました。

しばしば、ひとは(臨床者を含めての謂い)思い込みに陥ります。

“We have science in order to protect ourselves”をはじめてRicketts Advance Course で聴いたときは何のことやら???でしたが、自分が統計学をベースに学会へ臨床報告を重ねていく中で、ようやく腑に落ちた気がした次第です。

(A)Ricketts の頭頸部解剖には、臨床に直結した思考順序があります。個々の患者がもつ解剖特性はさまざまですが、誰しも共通する特徴があります。われわれ専門医はこのことに配慮しなければなりません。

診断と治療計画の立案に関して、可変要素が全面的に制約されているのが頭蓋基底骨です。矯正歯科処置によってこれらを変えることはできません。

つぎに成長の促進や抑制といった人為的介入が、強く制約されているのが下顎複合体です。不適切な矯正歯科処置によってオトガイの成長方向が開大したり顎関節の病理性変化をきたす、あるいは下顎枝までも萎縮する事例は、十分なトレーニングを受けていない一般歯科医師の矯正歯科治療では時折観察されます。とくに下顎骨の成長や、成人であってもその位置の保全には、最大限の注意を要し、「歯を並べる」よりも下顎そのものの成長ポテンシャルを阻害しない、または現状維持に努めることが重要です。医療における『最大非侵襲』はBioprogressiveの根幹です。

つぎに可変要素が若年者ですこし高くなるのが中顔面複合体です。概ね8歳までならば女児でも Orthopedic に Rverse headgear や Cervical traction によって適切な力・その方向・作用時間に配慮すれば変更は可能です。ただし開咬症例を除けば、U-Aをもちいた下顎前歯の圧下移動の技術がすくなくとも行使できなければ、上記の医原性疾病を付与しかねません。口蓋裂患者の治療で注意すべきは、上顎は瘢痕組織の影響が残るため、往々にして下顎複合体と中顔面複合体の順番が逆転することです。

(B)Ricketts R. M.の頭頸部解剖の第2の特徴。重力の「構造」と「機能」で区分されていることです。かれは骨学と筋学に関して、しばしば “Gravitate system ・ Anti-gravitate system” という言い方をしていました。構造医学の用語がもっとも適切であると思われますので参考までに「置性系(Landing system)」と「吊性系(Sling system)」として、頭蓋基底(Landing system)・下顎複合体(Sling system)・そして両者の間を埋め合わせる中顔面複合体(Semi-sling system)として解釈するのが便宜でしょう。

実際にも、「なぜ、下顎骨は人体の数ある骨の中で側頭骨錐体部と同等に緻密であるのか?」、「なぜ、下顎歯の移動は上顎歯よりも困難であるのか?」、「なぜ、上顎骨の側方拡大や中顔面全体の移動が若年者では可能であるのか?」といった疑問もこれでほぼ解明できるでしょう。

(C)3番目の特徴が、形質人類学から解剖学を捉えている点です。Ricketts R. M.がイリノイ大学矯正歯科時代に懇意にしていたLloyd DuBrul’s(人類学・解剖学)の影響と思われます。ご存じの通り、セファロで用いられる計測点や基準平面は人類学からの借用です。

 

【月曜日 実技セミナー】

(1)骨学を理解する方法の中でも、紙粘土や Wax-up にて各骨の概形を作り、力学構造を理解するのがもっとも早いと私は感触しています。名称の暗記というのは大切ですが、それだけでは頭が飽和しそうです。仮に覚えたにせよ、試験の一夜漬けのごとく、臨床の場では役に立つことは期待出来ないでしょう。ところが概形製作の実習は、手指の感覚と相俟って、全貌がとてもつかみやすいものです。

(2)たとえば、側頭骨の関節窩を作る過程では、関節隆起と窪みを指を使って同時にこしらえます。その頂部のなす線を延長してみると、それが Basion や環軸関節近傍を通過する様子がわかります。下顎骨が完全吊性系として姿勢制御系に参与する、という関連医学の領域で明かされた事実も、理論としてではなく実感として「わかる」わけです。

(3)また、錐体部は、側頭骨の側面から微妙な角度をもって前方へ楔状に延長しています。その延長線上には、蝶形骨大翼が持ち上がっていることが観察されます。実際にも、Trans-cranial X-ray(経頭蓋撮影法)では、左右両者が交わる形で明瞭なX字の像として映ります。側貌セファログラムに観察される前頭蓋の年間成長量が、短頭型では少なめに、長頭型で長めになる傾向が、このような製作過程を経ると一目瞭然にわかります。じつは、これから学ぶ長期成長予測法(2年以上の顔面頭蓋の長期成長予測)を習熟する上ではとても重要な基礎知識なのです。

(4)蝶形骨の理解は矯正歯科臨床にはきわめて大きなポイント。Rostrum (蝶形骨吻)鋤骨を介して上顎骨正中を吊り下げ、後方は翼状突起から口蓋骨を介して上顎骨後方を吊り下げていることがわかります。中顔面複合体が、Semi-sling system であることも、分離骨の観察だけではなく、このような概形製作を通じて実感としてわかるのです。

・・・というわけで、2日目はオルソパントモと正貌セファログラム、側貌セファログラムのトレース実習まで順調にすすみました。

ところで、アリゾナ州のRicketts Seminar では、筋学をはじめ、頸椎や頭蓋骨を受講者一人一人が「講師」として発表しました。Ricketts 曰く、「これからみなさんが、臨床者として蓄積してゆく、たしかな経験と知識に対して、是非とも自信を抱いてもらいたいとの思いから、このような機会を私は設けました。」

当時の参加者全員にとって、貴重な経験であったに違いありません。

【写真は受講者のお一人が送ってくれた金沢の山菜とその旬の味】

3月10日(日)・11日(月)の実施報告

2019年3月18日

 

 

 


【 3/10 日曜日 学理セミナー】

セミナーと学習の3基本(Impression, Repetition, Association)・臨床判断の基礎となる生物学原理・自由経済下の医療におけるBioprogressive Movement・あらゆる仕事の基本指針 5つの問いかけ(#1 Is it the truth? #2 Is it fair to all concerned? Will it build good will and better friendship? Will it be beneficial to all concerned? Is it done well and in good taste?)・初診の対応・個別化された医療を実現するP. P. F.・バイオプログレッシブの“Progression”の意味・診療所の持続経営の鍵を握る Human DriveMotivationについて検討しました。その後、 Solow’s Principle (#1#4)にはじまり、 1990年代のRicketts Principle(37項目)、不正咬合の原因となる遺伝因子・環境因子を総覧。生理学については、結合組織 (Ligament, Interstitial fluid, Tendon, Cartilage, Bone)を矯正歯科臨床の立場から検討しました。バイオプログレッシブの基礎となる解剖学は、骨解剖だけではありませんが、C 7 3の典型的な頸椎、軸椎、環椎の骨格標本を観察しながら、臨床の視線から検討し、顔の成長を理解する上で不可欠な頭蓋基底構成要素の頭蓋基底骨(後頭骨・蝶形骨・前頭骨)の生物学的な意味を検討しました。

 

【 3/11 月曜日 実技セミナー】

診療所を見学することによって学ぶことは少なくないと思います。また新鮮な経験でもあります。セミナー会場に隣接する「まちの歯ならびクリニック」のレイアウト、患者・専門医・アシスタントの動線、Webによる予約システム、初診診査からコンサルテーションまでの一連の流れを学びました。医院運営のシステムに関しては、長年臨床開業をしている人ばかりではなく、大学院を卒業された専門医などにとっても、他の職種の起業家と異なり訓練が十分とはいえません。開業後に文字通り苦労を積んで習得して行くのが実状でしょう。参加者にとって益するところが少しでもあれば幸いです。なお、これからの時代は、インターネットの活用について、現在とは違ったかたちの(医療機関として)適正な宣伝、予約システム・クラウド技術を活用した資料の保存と製作・キャッシュレス化の流れがますます加速して行くので、各々の診療所で導入を図って行くのは当然のことといえましょう。

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